第1回 パブリック・シンポジウム
「国立デザイン美術館をつくろう!」

2012年11月27日は冷たい木枯らしが吹く一日でしたが、会場の東京ミッドタウンホールは700人を超える聴衆であふれ、デザインミュージアムに関心を寄せる人たちの熱気に満ちていました。2時間30分ノンストップで行われたシンポジウムから、主な発言を紹介します。

なぜ「日本にデザイン・ミュージアムをつくろう!」会をつくったのか

―― 今日は3つのテーマに沿って討論を進めていきたいと思いますが、まずはそもそものはじまりとなる、なぜ「日本にデザイン・ミュージアムをつくろう!」会をつくったのかを、中心となるお二人にお話しいただきます(司会:柴田祐規子・NHKアナウンサー)
三宅一生 三宅一生戦後の日本はすぐれたデザインをたくさん生み出しました。僕は、ものをつくる仕事にはアートとデザインの壁はないと思って仕事をしてきました。いつかデザインに関わる場所をつくりたいと思ったのはずいぶん以前のことになります。2003年に『造ろうデザインミュージアム』という記事を朝日新聞に寄稿したことがきっかけで、この東京ミッドタウンにデザインの施設である21_21 DESIGN SIGHTが誕生しました。リサーチを中心とする活動を始めて5年半経ち、一方でアーカイブを持つことの重要性を再び感じるようになりました。独自のアーカイブづくりは、過去と現在と未来をつなぎ、新しい社会のための活力になります。3.11後の日本を「沈みゆく太陽」と言う人もいますが、僕はデザインがあるじゃないかと言いたい。デザインと文化の力で明日の社会をもっと元気にするために、この会を立ち上げました。
青柳正規 青柳正規デザインは産業革命後に生まれました。衣食足りてデザインを知る、そんなふうに言うこともできると思います。社会がすこしでもよい方向に変わることを願いながら新たなものを生み出す工夫がデザインです。すぐれたデザインを集大成したアーカイブがあれば、人々がどんな暮らしや社会を願ったのかを知ることができます。デザインミュージアムを実現するために中央官庁から動き出すという時代は、過去のものとなりました。一般人が声をあげると成功するのが、今なのです。市民がより良い生活のために声をあげる、アドヴォカシー(advocacy)の方法を使って、皆さんと一緒に国立デザイン美術館をつくりたいと思います。

3つのテーマ 1.だから今、デザインミュージアムが必要だ

―― 今日のシンポジウムを進めるにあたって、3つのテーマを考えました。それぞれのテーマは重なりあう、分かちがたいものではありますが、これらに沿って登壇者にお話しいただき、議論を深めていきます。まずひとつめのテーマは「だから今、デザインミュージアムが必要だ」。登壇者のお言葉を聞きたいと思います。
佐藤卓 佐藤卓ここでデザインミュージアムに「国立」という言葉がついている意義は大きいですね。私たちが暮らす街の景観は残念ながら美しいとは言えません。つまり街全体、もっと言えば日常生活自体がデザインミュージアムという考え方がなされていない。この責任を誰がもつのか。国立であることに意味があると思います。
深澤直人 深澤直人今日はたくさんの人がいらしていますが、ここにいる人々は思いを共有しています。デザインミュージアムをみんなでやろうという思いです。これをつくりはじめること自体がデザインですし、いよいよデザインが始まったとも感じています。
皆川明 皆川明デザインは「よろこび」や「楽しい」という感情に集約されていくと考えています。それは物質・空間・時間にかかわる行為です。デザインをアーカイブするミュージアムには大きな意義があると思います。
田川欣也 田川欣也日本において、デザインは経済のドライブフォースとしての機能を果たしてきました。しかし今日、日本の経済やデザインをめぐる環境は成熟を迎え、そのベクトルが向かう先を新しく考えていかなければならない状況となりました。そのような状況に生きる我々は、デザインの歴史を俯瞰する視点を必要としており、それがデザインを収集し整理するアーカイブへの期待となっているように思います。
鈴木康広 鈴木康広個人的な体験を思い起こすと、子ども時代はそれなりに幸せに充実した時間を過ごしてきましたが、20歳くらいになると崖っぷちに立った気分になりました。自分自身の成長と人類・社会の進化がどう関わっているのかを測りきれないからです。それを知るために、デザインがヒントを与えてくれるのではないかと思っています。
関口光太郎 関口光太郎僕はデザインに関しては素人なので、今日の登壇者のなかで美術館の観客に一番近い立場にいると思います。完成したデザインミュージアムはどんなものだろうかと考え、携帯電話や車やポスターが展示されている風景を思い浮かべました。デザインという言葉には広い意味があり、それを皆が共有していないのではないか、だから「デザインを集める」という意識にならなかったのではないかと思います。
工藤和美 工藤和美建築家としての立場からお話ししますと、デザインとは考えること。空間のなかで人間がどう行動するか、どんな空間にいると気持ちが明るくなるかなど、さまざまなことを考えることです。東日本大震災の被災地に身を置くたびに、未来を構築するためにはデザインが必要だと日々感じます。豊かな時代だからこそ、考えることが求められています。
深澤我々の生活の質を理解する/測るために、デザインという考え方が有効です。ところが今は経済というスケールしかない。別のスケールをつくりましょうということですね。

3つのテーマ 2.みんなに愛されるデザインミュージアムとは

―― 皆さんのお話から、デザインを集め、展示し、考える場所としてのデザインミュージアムが浮かび上がります。ふたつめのテーマです。多くの人たちに愛されるデザインミュージアムとは、どのようなものでしょうか。
関口デザインという概念を持たない人でも楽しめるように、教育普及がとても重要ではないかと思います。
皆川これからつくるデザインミュージアムでは「もの」自体は入口となるでしょう。経済効率をはずして「もの」の価値を検討してみることが求められると思います。そのように鑑賞し背景を知る場所がデザインミュージアムであり、そこで得たものがさらに私たちの生活に循環されると素晴らしいと思います。
工藤建築は大勢のつくり手、つまり職人さんの存在がなければ絶対にできません。職人さんの仕事を含めてデザインなのです。そういった全体像を示す場であってほしいと思います。
三宅本当に、デザインはデザイナーだけがつくるものではありません。たくさんの技術があってこそです。ところが、たとえば僕が携わっている衣服の世界では多くの織工場が閉鎖を余儀なくされている現状があります。たくさんの技術が失われていくということです。僕は、これをなんとかしないと日本は沈没してしまうという危機感をもっています。
青柳産業革命は1760年頃にはじまりましたが、日本で大量生産がはじまったのはそれから100年ほど遅れました。しかしそのおかげで、伝統工芸が残りました。工芸品は各国の博覧会に出品され人気を博した。英・仏がなくしてしまった手工芸が現代まで残ってきたことは、おおきな財産です。それをミュージアムとしておもしろく見せることができればよいと思います。16世紀ドイツのヴンダーカンマー的な展示も考えられるでしょう。整理された展示と、なんでも詰め込んでおくアーカイブの両方が必要でしょう。

3つのテーマ 3.デザインミュージアムとアーカイブ

―― デザインを保存し記録するアーカイブについては、今日もたびたび話題に上りますが、改めて3つめのテーマ「デザインミュージアムとアーカイブ」について考えたいと思います。どのようなアーカイブが考えられるでしょうか。
深澤すでにあるデザインミュージアムと同じだけではつまらない。触れないものもアーカイブする、流動しているものをどうアーカイブするかといった視点からも考えてみるのはどうだろうか。
―― そうすると検索方法も考える必要がありますね。
青柳従来のカテゴリー方式、つまりダイレクトリー方式からより平面的なキーワードによるグーグル方式に移行していく可能性があります。
皆川デザインにおいては、現在もつくられているもの、行為として続いていることなど、動いている現実そのものもアーカイブとして考えられるのではないでしょうか。きちんとインフォメーションをするのであれば、そういった生きているアーカイブもあると思います。たとえば日本中にデザインミュージアムが散らばっているのもいいかもしれません。
佐藤見る人が編集できる、感じることができる「場」のようなアーカイブがあると面白いですね。
三宅身体的な場というのは大切なことかもしれません。日本の美術館はともすると権威的な場所になりやすいのですが、手を使ってつくる楽しさを伝える場所でありたい。デザインに精通し、研究をする専門のキュレーターの育成も必要です。
鈴木僕が作品をつくるのは、考えを物質化することと言えるのですが、つくった後にいろいろな反応があります。「もの」とのつきあい方を伝えるような場があると面白いと思います。
―― そろそろ時間が迫ってきました。佐藤さん、深澤さんのおふたりにまとめのお言葉を伺います。
佐藤歴史、観察、教育、機能、技術、環境……こういったキーワードをあげていくことからアーカイブを考えていけるのではないでしょうか。それを次につなげていきたいと思います。
深澤アーカイブの構想をあまりきれいにまとめてしまうことを危惧しています。でもともかくは正義感のような、ここでやらないと次はない、それくらいの気持ちでデザインミュージアムをつくることを進めていかなければならないと思っています。
―― では三宅さんと青柳さんにこれからのことをお訊きして最後とします。
三宅今日はたくさんの人がいらしてくださり、心強く思いました。来秋、21_21 DESIGN SIGHTで「デザイン・ミュージアム・ジャパン」展を開催することが決まっています。楽しみにしていてください。
青柳シンポジウムは回を重ねていきたいですね。そして陳情をどうするか。具体的に決まっているわけではないのですが、議員連盟をつくり、予算獲得にむけて動き出したいと思っています。「みんなでつくる」ことを大切にして、必ず実現させましょう。
司会
柴田祐規子(NHKアナウンサー)
日時
11月27日(火)18:30-21:00(開場:17:30) ※Ustream中継あり
場所
東京ミッドタウンホール HALL A(東京都港区赤坂9-7-1 地下1階)
都営大江戸線「六本木駅」8番出口より直結
東京メトロ日比谷線「六本木駅」より地下通路にて直結
東京メトロ千代田線「乃木坂駅」3番出口より徒歩約3分
東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」1番出口より徒歩約10分
定員
650名(事前申込制/先着順/自由席)
参加費
無料

三宅一生/デザイナー

1938年生まれ。70年三宅デザイン事務所設立。産地や企業との協働により独自の素材、新技術を開発し、ものづくりを行なう。93年機能と汎用性を備えた現代生活の衣服「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」、98年には一体成型による「A-POC」を発表。2004年三宅一生デザイン文化財団設立。07年21_21 DESIGN SIGHT開設と共にディレクター就任。同年、Reality Lab.を立ち上げ、10年「132 5. ISSEY MIYAKE」、12年「IN-EI陰翳 ISSEY MIYAKE」を発表。

青柳正規/美術史家・国立西洋美術館長

1944年生まれ。ギリシア・ローマ考古学者。67年東京大学文学部美術史学科卒業。69〜72年ローマ大学文学部古典考古学科留学。東京大学教授を経て、2008年より現職。文学博士。日本学士院会員。著書に、『皇帝たちの都ローマ』『トリマルキオの饗宴』(共に中公新書)、『ポンペイの遺産』(小学館)など多数。独立行政法人国立美術館理事長、東京大学名誉教授もつとめる。

佐藤卓/グラフィックデザイナー

1955年生まれ。79年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了、株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。「ロッテキシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などのパッケージデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館などのシンボルマークを手掛ける。また、NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」アートディレクター・「デザインあ」総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクター、グッドデザイン賞審査副委員長、JAGDA副会長、キッズデザイン賞審査委員もつとめる。

深澤直人/プロダクトデザイナー

1956年生まれ。80年多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業。89年に渡米、IDEOに8年間勤務。96年帰国、IDEO東京支社長。2003年NAOTO FUKASAWA DESIGN設立。卓越した造形美とシンプルに徹したデザインで、世界を代表するブランドのデザインや、日本国内の企業のデザインやコンサルティングを多数手がける。電子精密機器から家具・インテリアに至るまで手がける領域は幅広く多岐。「MUJI」壁掛け式 CDプレーヤー、「±0」加湿器、「au/KDDI」INFOBAR、neonはN.Y.MOMA収蔵品となる。07年より21_21 DESIGN SIGHTディレクター、12年7月より日本民藝館五代目館長に就任。

工藤和美/建築家

1960年生まれ。1985年横浜国立大学建築学科卒業、86年株式会社シーラカンス設立、91年 東京大学大学院博士課程単位取得退学。現在、シーラカンスK&H 株式会社代表取締役、東洋大学教授。代表作に2001年福岡市立博多小学校(文部科学大臣奨励賞など)、2011年金沢海みらい図書館(International architecture Award 2012など)。学校建築をライフワークとする。

皆川明/ファッションデザイナー

1967年生まれ。95年に自身のファッションブランド「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。オリジナルデザインの生地による服作りを進め、国内外の生地産地と連携して素材や技術の開発に注力する。デンマークkvadrat社、英LIBERTY社をはじめとするテキスタイルメーカーにもデザインを提供。近年は家具やうつわなどの生活デザインや、青森県立美術館、東京スカイツリー®のユニフォームのデザインも手がける。

田川欣哉/デザインエンジニア

1976年生まれ。99年東京大学工学部卒業。2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。takram design engineering代表。デザインエンジニアリングという新しい手法で、ソフトウェアからハードウェアまで幅広い製品のデザインと設計を手掛ける。主なプロジェクトに、NTTドコモ「iコンシェル」「iウィジェット」のユーザインタフェース設計・デザイン、無印良品「MUJI NOTEBOOK」の設計と開発などがある。

鈴木康広/アーティスト

1979年生まれ。2001年東京造形大学デザイン学科卒業。公園の回転式遊具を利用した映像インスタレーション「遊具の透視法」がNHKデジタル・スタジアムにて最優秀賞を受賞。その後、アルスエレクトロニカ・フェスティバルへの出品をきっかけに国内外の多数の展覧会やアートフェスティバルに参加。瀬戸内国際芸術祭2010にて「ファスナーの船」を出展し話題を呼ぶなど、美術館のみならず公共空間での活動に精力的に取り組んでいる。東京大学先端科学技術研究センターを拠点にジャンルを越えた発想で作品制作に取り組んでいる。

関口光太郎/アーティスト

1983年生まれ。2006年、多摩美術大学彫刻科卒。卒業制作には、新聞紙とガムテープを用いた「瞬間寺院」を制作。卒業後から現在まで、都内の私立特別支援学校に勤務。各地の美術館や公共施設で、新聞紙とガムテープを使った工作のワークショップの講師を勤める。08年三宅一生ディレクション「XXIc.-21世紀人」展(21_21 DESIGN SIGHT)に「明るい夜に出発だ」を出品。12年「感性ネジ」で第15回岡本太郎賞を受賞。

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